2009.12.17 Thursday 13:31
今日は「死んだ知識」について話をしようと思います。
というのは、「知識や情報は集めれば集めるほどいい」と考えている人が多いように感じるからです。
お金というのは、便利なもので何にでも交換できますから、「集めれば集めるほどいい」とも言えるのです。
しかし、知識はそうではなく固定されたものです。
集めるとガラクタになります。
それが死んだ知識です。
もし間違った知識を持っていても、それは偽札のように摘発されることはありません。
また所有しているだけで、発言などに表されなければ、チェックされることがありません。
発言したとしても、「それは違うよ」と言ってくれるのは、先生か親切な人、親しい人だけで、「この人、間違っているよ」と思っても、たいていの人はスルーします。
ある会社の社長が「団塊の世代」を「ダンコンの世代」と思いこんでいた、という話を友人から聞いたことがあります。
PR誌のインタビュー取材で、何度も「ダンコンの世代」を連発するので、笑いをこらえるのに必死だったと言っていました。
社長ともなると誰にも指摘してもらえないのです。
このように一度埋め込まれた知識は、温存されます。
そして、人の思考回路の中で機能し続けるのです。
それは残置された地雷のようなもので、いつ機能するかわかりません。
たとえば、医療現場や、海や山でのサバイバルな状況などでは、間違った知識が命取りになることもあるでしょう。
死んだ知識とは、間違った知識のことばかりではありません。
スペースデブリというものをご存じですか? 宇宙のゴミです。『ブラネテス』というマンガは未来のデブリ回収業を描いています。
回収業は架空の職業ですが、デブリ自体は、今現在すでに存在します。
人が打ち上げ、放棄、破壊された人工衛星や、その破片です。
デブリ同士が衝突して、より細かい断片になって、より始末が悪くなります。
こういうものが高速で地球軌道を旋回しているのです。
宇宙船に衝突すると致命的な打撃を与えます。
つまり、もはや宇宙にもゴミ問題があるのです。
あまり適合性の高い比喩ではありませんが、私は死んだ知識のことを考えるときに、いつもこのデブリを思い出します。
本来の全体性を失って断片化された知識です。
こういう知識には、体系性がありません。
またその知識を生み出した経験や、それを考えた人の意志から分離しています。
生み出されるプロセスのない結論だけの知識です。
これをつきつめたものがマニュアルです。
ファーストフードでは、「こうすればいい」という結論だけが従業員にインプットされます。それから逸脱する事態には店員は対応する能力を持ちません。
また店員も客も逸脱させないのが「よいマニュアル」です。
逸脱した事態が生じたときは、それによってマニュアルが改良されていきます。
そこにいる人が進歩するわけではなくて、マニュアルとシステムが進歩するのです。
しかし、あるチェーン店のマニュアルで人にインプットされたものは他のチェーン店では役立ちません。
違うシステムだからです。
ときには、矛盾し、学んだことが邪魔になるでしょう。
またもう少し柔軟な接客をしなければいけない店に行ったら、マニュアルでインプットされた機械的な応対はむしろたいへんに邪魔になるでしょう。
私のいう死んだ知識というのは、このマニュアルのインプットのようなものです。
それらはもともと一つの体系の一部でした。
体系自体は、もともと自立した機能を持っています。
しかし、その断片は応用が利かないのです。
そして、Aという体系の断片と、Bという体系の断片は、全く異なる軌道を持っていたのかもしれないのです(人工衛星だとすると)。
だから、もともと辻妻が合わないのですが、死んだ知識はふだん眠っているので、その矛盾を人は見過ごすのです。
では、どこまでが死んだ知識かというと、自分のものとして消化し、血肉化できない知識は、すべて死んだ知識です。
食べ物を考えればわかるでしょう。
食べ物は、元は自分にとって異物です。
それを体内に入れる。消化することによってエネルギーを取り、身体を形成する。
不要なものは排泄する。
消化しづらいものは、身体を重たくして、害します。
消化されたものは自分と一体化します。
一体化しない死んだ知識は、たいへん有害なのですが、誰もそのことを意識しません。
学校というところが、そもそも知識が生きているか死んでいるかに注目しませんから、小学校から大学まで行けば、16年間、生きている死んでいるに無頓着に人は知識をインプットされるのです。
みんなそのように育つので、知識が生きているか死んでいるか、ということに全く無感覚になってしまうのです。
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アッチ→
